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ロシアにおける「商標の使用」と使用証拠

2016年05月01日

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■概要
ロシアにおいて、商標登録は、登録日の後3年以内に当該商標が使用されなかった場合、第三者による不使用取消訴訟(ロシアの不使用取消は裁判所に対して行う)により、その全部または一部が取り消される場合がある。不使用取消訴訟に対する抗弁として、登録された態様とは実質的に異なる態様での商標の使用であっても、商標の適切な使用と看做される場合がある。一方、使用による識別力獲得の立証や著名商標出願を含むその他の手続に関して求められる「商標の使用」の証拠に関しては、ロシア特許庁(ROSPATENT)は、出願または著名商標出願に記載された商標とまったく同一の態様での使用の立証を求める。
■詳細及び留意点

【詳細及び留意点】

 ロシア連邦民法第IV部第1484条には、商標がその権利者により使用され得る態様を、次のように規定している:

 (1)以下にあげる商品(ラベルおよび包装を含む)における使用:

  ・ロシア連邦領域内での生産、市場への投入、販売される商品

  ・ロシア連邦領域内での展示会および見本市において展示される商品

  ・その他の形態で市場に流通する、または当該目的における保管、輸送される商品

  ・ロシア連邦領域内への輸入がなされる商品

 (2)役務の提供における使用

 (3)販売する商品を紹介する書類における使用

 (4)商品または役務の市場への投入、ならびに、通知、看板および広告における使用

 (5)インターネット上(ドメイン名を含む)の使用

 

 商標は、以下の場合に使用されているものとみなされる。

 (a)商標が登録された指定商品または指定役務に対して、当該商標が使用されている場合

 (b)当該商標が付された商品または当該商標と関連付けられた役務が、ロシアにおいて販売を目的として使用されている場合

 

1.使用証拠

 原則として、商標の使用証拠は、以下の場合において要求される。

 (a)商標登録に対して、第三者が不使用取消請求を提起した場合

 (b)商標を登録するために、出願人が、本来的に識別力を有していない商標について使用による識別力(セカンダリ・ミーニング)を立証する必要がある場合

 (c)出願人が、ロシア連邦において、自らの商標について著名商標の認定を求める場合

 使用証拠の範囲および種類は、その状況または目的によって異なる。実際の使用に関する具体的証拠を伴わない宣誓書は、使用証拠とはみなされない。

 

2.不使用取消手続における抗弁

 ロシアにおいて、使用の開始または使用の意図は、商標の出願時、登録時、ならびに更新時の必須要件ではない。ロシア連邦民法第IV部第1486条に従い、商標登録は、その登録日の後3年以内に商標権者、排他的ライセンシー、非排他的ライセンシー、のいずれかによって、指定商品または指定役務に関して当該商標が使用されなかった場合、指定商品または指定役務の全部または一部が取り消される場合がある。商標の不使用に基づく商標登録の取消は、第三者の請求によってのみ生じる恐れがあり、第三者の請求無くロシア特許商標庁もしくは裁判所の職権で不使用に基づく取消請求がなされることは無い。

 ロシアでは、不使用取消請求は、裁判所に提訴しなければならない。原告は、登録商標取消に対する理由を述べなければならない。理由としては、以下の様なものがある。

  • 冒認登録の取消
  • 原告の商標出願に対して引例となった先行登録の取消(取消により引例(拒絶理由)を克服する為)

一方、使用にかかる立証責任は、商標権者(被告)が負う。その登録商標を完全に有効なもとして維持するために、商標権者は以下の使用証拠を提出しなければならない。

 (1)商標登録された商標と同一態様での商標に関する使用証拠

 (2)商標権者の使用証拠。または商標権者の管理下(例えば、登録ライセンシー)による使用証拠

 (3)ロシア市場に出された商品または役務に対する使用証拠(単なる広告または販売申入れは、市場に出すことにはあたらず、実際の使用を示すには十分ではない)

 (4)指定商品または指定役務に対する使用証拠

 (5)取消請求の提訴日前3年以内における使用証拠

 商標権者は、不使用取消請求事件に勝訴するためには、上記(1)~(5)のすべての証拠を提出しなければならず、または当該商標が天災や輸出入規制等の自らの制御を超える事由により使用されなかったことを立証しなければならない。

 不使用取消請求に対する抗弁において、ロシア連邦民法第IV部は、登録された態様とは実質的に異なる態様での商標の使用を、商標の適切な使用とみなす場合を認めている。多くの場合、登録された商標が白黒であった場合でも、カラーでの商標の使用は、登録された商標の使用としてみなされる。しかし、登録された商標が平易なブロック体商標で、実際の使用はデザイン化された態様の文字の商標であった場合には、登録された商標の使用とみなされないこともある。すなわち、商標が登録された態様で使用されていない場合、これを適切な使用であるとみなすか否かは、裁判所の裁量に委ねられる。

 実務上、不使用取消請求を克服するためには、以下の証拠が必要である。

 (1)商標が付されていることを明確に示す製品またはその包装の見本

 (2)上記(1)における製品が商標権者によって生産されたことを立証する文書(例えば、製品証明書またはその他証明文書)

 (3)上記(1)における製品が第三者により生産された場合、商標権者と当該生産者との間で締結されたライセンス契約書、または当該製品の製造業者について商標権者が支配していることを証明するその他文書

 (4)上記(1)における製品が、取消請求の提訴日前3年以内に、ロシアにおいて合法的に供給されたことを示す文書(ロシア税関により押印された税関申告書、供給契約書の写し、インボイス、船積証券など)

 (5)製品が、ロシア国内において、エンドユーザーまたは小売業者に流通した(販売された)ことを示す文書(契約書の写し、領収書、請求書など)

 (6)ロシアのマスメディアに掲載された広告の写し、および当該広告が商標権者によりまたはその承認を得て掲載されたことを立証する付属文書

 (7)商標が使用されていたこを示すその他文書

 商標登録全体を維持するためには、商標権者は、その指定商品または指定役務に記載された全ての指定商品または全ての指定役務に関して、商標の使用証拠を提出しなければならない。使用証拠を提出できなかった指定商品または指定役務に関しては、裁判所は、その商標登録の一部を取り消し、その指定商品または指定役務を、当該商標の使用が立証された指定商品または指定役務に限定することができる。

 

3.使用による識別力(セカンダリ・ミーニング)

 ロシア連邦民法第IV部は、本来的に識別力を欠く商標が使用された結果として識別力を有するに至った場合(例えば長年にわたる使用など)は、登録できると規定している。この場合、出願人は、当該出願人の商標としてロシア消費者により認識されていることを証明するために、出願人により当該商標が使用されてきたことを示すあらゆる情報および証拠を提出することができる。例えば、以下が挙げられる。

 (a)当該商標が付された商品の生産量と販売量

 (b)当該商標の使用期間

 (c)広告費用

 (d)当該商標に言及する現地の定期刊行物の写し

 (e)ロシア消費者が、当該商標が付された商品の生産者として出願人を認識していることに関する情報(例えば、世論調査の結果)

 (f)当該商標が付された商品および役務の展示を伴う、ロシア内外における製品展示会や専門フォーラムへの参加に関する情報等

 上記に列挙された各種の証拠を全て提出する必要はないが、より多くの裏付け文書が審査官に提示されれば、識別力を欠くという拒絶理由を克服できる可能性がより高くなる。

 

4.著名商標

 ロシアにおいて、著名商標の法的保護を得るためには、著名商標出願を行い著名商標としての認定を受けなければならない。著名商標であると認定するに値する証拠の一部として、出願人は、自らの商標が、ロシアにおいて、出願人により生産され、かつロシア連邦において流通された商品に関して、著名商標の出願日以前の一定期間にわたり当該商標が使用されてきたことを立証することが要求される。

 登録された商標の態様とは異なる態様も使用証拠とみなされるのは、不使用取消訴訟における抗弁のみに適用される。不使用取消訴訟を除き、使用による識別力の立証または著名商標出願を含むその他の手続に関しては、登録見本と完全同一でない態様の商標の使用は、登録を求めている商標の使用とはみなされない。現在、ロシア特許商標庁(ROSPATENT)は、商標出願または著名商標出願に記載された商標と完全同一の形態で使用されていることの立証を求める。

 結論として、ロシア法に基づき認められる商標の使用は、商品または役務に関する実際の使用である。法は、一定の場合において、完全同一でない態様での商標の使用を認めているものの、登録された態様で商標を使用することを推奨する。商標がライセンシーにより使用される場合、あらかじめロシア特許商標庁(ROSPATENT)にライセンス契約を登録することを強く推奨する。これはライセンス契約が登録されていない場合には、問題が生じてから証拠としてライセンス契約書を提出してもその契約は無効とみなされるためである。

■ソース
・ロシア連邦民法第IV部
■本文書の作成者
Baker & McKenzie CIS, Limited
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期

2015.12.22

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