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シンガポールにおける均等論に対する裁判所のアプローチ

2018年10月04日

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■概要
シンガポールには均等論がない。その代わりに、シンガポールはクレーム解釈について目的論的アプローチを採用してきた。シンガポールには、正式な包袋禁反言の法理はないが、シンガポールの裁判所は、特許クレーム範囲の決定にあたり、審査経過を検討してきた。
■詳細及び留意点

1.シンガポールには、均等論に関する確立された理論があるか

 

 均等論の起源は米国であり、被告製品が特許権者のクレームを侵害したか否かを評価するにあたり米国裁判所が取るアプローチである。この法理に基づき、被告製品が、実質的に同一の結果を達成するために、実質的に同一の方法で実質的に同一の機能を果たす場合、被告製品は、特許権者のクレーム範囲内にあたるとみなされる。

 

 米国とは異なり、シンガポールには、制定法であるか判例法であるかを問わず、均等論がない。代わりに、シンガポール裁判所は、クレーム解釈に対して、イギリスで採用されている目的論的アプローチを支持してきた。

 

 実際、Bean innovation Pte Ltd & Anor v. Fexon (Pte) Ltd事件において、シンガポール控訴裁判所は、均等論を暗に拒絶したものと見受けられる。問題の特許は、個人向け郵便受け用のセントラル施錠システムを備えた郵便受けアセンブリ施錠システムに関するものであった。被告の郵便受けも、同一の結果を達成するセントラル施錠システムを有していた。特許権者は、被告製品が特許製品と同一の機能を果たすため侵害があったと主張した。控訴裁判所は、そのアプローチはクレームにおいて述べられていることを無視することと同等であるとして、本件クレーム全体を機能的に解釈する特許権者のアプローチに同意しなかった。

 

2.シンガポールにおける特許クレーム解釈に対する目的論的アプローチ

 

 クレーム解釈に関する法律は、シンガポール特許法第113条(1)に規定されており、特許により付与された保護範囲は、特許明細書に含まれる説明および図面により解釈された、明細書中のクレームにおいて指定されたものであると解されるものとすると定められている。本条に基づくクレーム解釈に際して、目的論的アプローチが採用される。

 

 目的論的アプローチはまた、Genelabs Diagnostics Pte Ltd v. Institut Pasteur(「Genelabs事件」)において、シンガポール控訴裁判所により支持された。本件特許におけるクレームは、ヒト免疫不全ウイルス2型(「HIV-2」)レトロウイルスに対する抗体との特定免疫反応を生じる18merのアミノ酸配列をカバーするものであった。被告の試験キットは、完全に同一の18mer配列と追加の5つのアミノ酸から成る23mer配列を含んでいた。侵害があったか否かの判断に際して、控訴裁判所は、Improver Corp v. Remington Consumer Products Ltdにおいて定められた精巧なテストにおいて要約された以下のプロトコルの質問事項に導かれた、Catnic Component Ltd v. Hill & Smith Ltdにおいて提示された目的論的解釈の法理を適用した。

 

(1)この異形は、本発明の作用方法に重大な効果を有するか。
Yesの場合、この異形はクレームの範囲外である。

 

Noの場合:(2)

(2)このこと(すなわち、この異形が重大な効果を有さない)は、当業者である読者にとって、特許の公開日時点において自明であったか。

Noの場合、この異形はクレームの範囲外である。

 

Yesの場合:(3)

(3)このこと(すなわち、この異形が重大な効果を有さない)にもかかわらず、当業者である読者は、クレームの文言から、特許権者が、主たる意味の厳格な遵守が本発明の重要な要件であることを意図していたと理解したか。

Yesの場合、この異形はクレームの範囲外である。

 

 控訴裁判所は、5つの追加のアミノ酸は、ニトロセルロース片上における18mer配列にとっての固着剤および安定剤以上のものではないため、23mer配列は、取るに足らない異形であると判断した。よって、裁判所は、被告の診断キットが本件特許を侵害したと判示した。

 

3.目的論的アプローチの制限

 

 しかし、採用されたクレーム解釈に対する目的論的アプローチには制限がある。

 

(1)クレームの本質的特徴を説明するために使用される用語が明確で明瞭な用語である場合、これら用語は無視されない。

(2)クレームが平易な意味を有する場合、クレームに異なる別の意味を持たせるように、明細書の本文において使用されている文言に依拠すべきではない。

 

4.包袋禁反言の法理

 

 米国裁判所によりやはり採用されている包袋禁反言の法理の存在および範囲は、均等論と関係がある。包袋禁反言の法理は、特許審査に際して縮減補正を行う特許権者が、当該補正により譲り渡した主題をカバーすべく自らのクレーム範囲を拡大するために均等論を発動し、特許付与を受けることを禁止するものである。

 

 シンガポールは、包袋禁反言を正式に認めていないが、Genelabs事件において、シンガポール控訴裁判所は、特許クレームの範囲を評価するにあたり、審査経過を考慮に入れた。

 

 Genelabs事件は、シンガポールで再登録された欧州(イギリス)登録特許の侵害認定に関するものであった。本件特許は、特に、HIV-2、その抗原、ならびにヒトHIV-2レトロウイルスに感染したヒト中で発現した抗原の存在にかかるin vitro検出の方法をカバーするものであった。控訴人は、HIV-2を検出する診断キットを製造、販売した。

 

 被告は、自身の診断キットはSIV抗原のアミノ酸配列を使用しているため、本件特許を侵害しないと主張した。この主張の裏付けとして、被告は、欧州特許庁(「EPO」)の通知書に対する特許権者の応答書の一部に裁判所の注意を向けさせ、この応答書に鑑みて、本件特許の範囲はHIV-2に限定されており、SIVを含むべきではないと主張した。

 

 特許によりクレームされた独占の範囲を決定するにあたり、控訴裁判所は、特許権者の応答書を検討し、特許権者の完全な応答書を審査した結果、特許権者の権利をHIV-2抗原のみに縮減し、SIV抗原を排除するようなものは応答書には一切ないと結論付けた。よって、裁判所は、被告の診断キットが本件特許を侵害したと判示した。

 

 まとめると、シンガポールにおいては、正式な包袋経過禁反言の法理はないが、裁判所は、特許クレームの範囲を決定するにあたり、審査経過を検討する用意があると考えられる。

■ソース
・Bean innovation Pte Ltd & Anor v. Fexon (Pte) Ltd [2001] 2 SLR(R) 116
・Bean innovation Pte Ltd & Anor v. Fexon (Pte) Ltd [2001] 2 SLR(R) 116 at [26]-[27]
・シンガポール特許法(Cap 221、2005年改正)
・Genelabs Diagnostics Pte Ltd v. Institut Pasteur and another [2000] 3 SLR(R) 530
・Catnic Component Ltd v. Hill & Smith Ltd [1982] RPC 183
・EPC第69条の解釈に関するプロトコル(1973年10月5日)
・Improver Corp v. Remington Consumer Products Ltd [1990] FSR 181 at [189]
・Bean Innovations Pte Ltd v. Flexon (Pte) Ltd [2001] 2 SLR(R) 116 at [27]
・First Currency Choice Pte Ltd v. Main-Line Corporate Holding Ltd [2008] 1 SLR(R) 335 at [24]
・Genelabs Diagnostics Pte Ltd v. Institut Pasteur and another [2000] 3 SLR(R) 530 at [66]
・Genelabs Diagnostics Pte Ltd v. Institut Pasteur and another [2000] 3 SLR(R) 530.
■本文書の作成者
Bird & Bird ATMD LLP
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期
2018.02.08
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