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(中国)先行技術文献に本願発明が解決しようとする技術的課題が記載されているか否かに関する事例

2013年05月24日

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■概要
北京市高級人民法院(日本の「高裁」に相当)は、先行技術文献には、本件特許発明の技術的構成が記載されているが、本件特許発明が解決しようとする技術的課題が記載されていないため、当業者は当該先行技術文献から本件特許発明を得ることができない、として、『中華人民共和国行政訴訟法』第61条第1号の規定に基づき一審判決を維持し、本件特許権を有効とした。
■詳細及び留意点

 本事件は、国家知識産権局専利覆審委員会(以下、「審判部」という)合議体が下した特許有効との審決に対し、一審である北京市第一中級人民法院(日本の「地裁」に相当)で下された審決維持の判決を不服として、北京市高級人民法院にて争われた事件である。

 

 本事件の争点は、「先行技術文献に本願発明が解決しようとする技術的課題が記載されているか否か」である。

 

 中国国家知識産権局が策定した審査指南(以下、「審査基準」という)には、発明の先行技術に対する進歩性有無の判断で重要な点は、先行技術文献に技術的特徴の差異を最も近い先行技術に用いて技術的課題を解決する示唆があるか否かである旨規定されている(中国特許審査基準第2部分第4章3.2.1.1を参照)。

 

 本特許は、有機ELデバイスに関する。無効審判請求人は、証拠文献1~14を提出して、本件特許権の無効を主張した。特許権者は、請求項1記載の発明を以下のとおり訂正した。

「一対の電極及び有機媒体を含む有機ELデバイスであって、前記有機媒体は一層の発光層或いは多層の発光層を含み、前記電極間に設置され、

 前記有機媒体は発光材料を含み、前記発光材料は重金属を含む有機金属錯体を有し、

 前記当該有機媒体は構造式IIIで示される4,4’-7ビフェニレンジアミン誘導体を含み、

 ここで、R10~R19はそれぞれ独立して水素原子を表し、

 発光材料を構成する主原料が有する三重項状態のエネルギー準位は、重金属を含む有機金属錯体の三重項状態のエネルギー準位よりも大きく、

 構造式IIIで示すアミン誘導体を正孔輸送材料とし、

 重金属を含む有機金属錯体の発光材料は燐光材料であって、

 前記重金属はIrでるあることを特徴とする有機ELデバイス。」{さんじゅうこう じょうたい}

 

 審判部合議体は、「請求項1に記載された発明と証拠文献1に開示された技術との相違点は、有機媒体において正孔輸送層として用いる化合物が両者において異なる点である。請求項1記載の発明は、構造式IIIに示される化合物であるのに対し、証拠文献1のデバイスIはm-MTDATAであり、デバイスIIはα-NPDである。本特許発明が解決しようとする技術的課題は『有機ELデバイスを平面ディスプレイに用いる際、光線光度が高まるに従い、発光効率が明らかに低下するため、高い光度下で高い発光効率を有し、且つ電力消費が少ない有機ELデバイスを提供すること』である。

 証拠文献2-3には、本特許発明の構造式IIIと同じ化合物が開示されているものの、いずれにも本特許発明が解決しようとする技術的課題について記載されておらず、構造式IIIに示す化合物を選択することにより、高い光度、高い発光効率を有する有機ELデバイスを得られることを示唆していない。」として、本特許権にかかる全ての発明を有効とする審決を下した(第16637号審決)。

 

 これを不服とした無効審判請求人は、北京市第一中級人民法院に審決取消訴訟を提起したが、中級人民法院は第16637号審決を維持する判決を下し(第2941号判決)、この判決を不服として北京市高級人民法院に上訴した。

 

 高級人民法院は、「証拠文献1-3には、本特許発明が解決しようとする技術的課題が記載されておらず、当業者が当該特定の技術的課題に直面した際、証拠文献1-3から示唆を得られないのは当然であり、かつ証拠文献2-3に開示された数多くの化合物の中から、本特許発明が特定する構造式IIIに示す化合物を選択し、当該技術的課題を解決することもできない。」として、一審判決を維持した。

 

参考(北京市高級人民法院判例2012年7月12日付(2012)高行終字第618号より抜粋):

  判断发明对本领域技术人员来说是否显而易见,要确定的是现有技术整体上是否存在某种技术启示,即现有技术中是否给出将该区别技术特征应用到最接近的现有技术以解决其存在的技术问题的启示,这种启示会使本领域的技术人员在面对相应的技术问题时,有动机改进最接近的现有技术并获得该实用新型专利技术。如果现有技术没有揭示出其存在的技术问题,本领域技术人员通常也不能意识现有技术的缺陷时,一般说来可以直接认定专利技术方案具有创造性。

 

  本案判断权利要求1是否具备创造性的关键在于,现有技术是否存在通过选择式III化合物来获得高亮度具有高发光效率的有机EL器件的启示。证据1、2、3对本专利要解决的发光器件在高亮度区具有高发光率的技术问题均没有任何记载,本领域技术人员在面对发光器件在高亮度区具有高发光率的技术问题时,并不能从证据1、2、3中得到启示,并通过在证据2、3的众多化合物中选择本专利权利要求1特定的式III化合物来解决上述技术问题。此外,证据2基于提供驱动电压被降低或者发光寿命显著提高的有机EL器件的目的而提供了一系列化合物,但实验结果显示本专利权利要求1中的式III化合物并不是优选化合物。证据3只是列出可用作空穴传输材料的多种化合物,对于化合物作为空穴传输材料用途中的优劣没有明确说明。因此,证据1-3未给出相应的技术启示。

 

(日本語訳「発明が当業者にとって自明であるか否かを判断する際には、先行技術全体に技術的示唆があるか否か、即ち、先行技術には技術的特徴の差異を最も近い先行技術に用いてそこに存在していた技術的課題を解決する示唆を提供しているか否かであり、この示唆により、当業者は相応の技術的課題に直面した際、最も近い先行技術を改善し、且つ当該実用新案に記載の考案を得る動機付けがある。もし、先行技術が技術的課題を開示せず、当業者が先行技術の課題を意識できなければ、一般的には特許技術案の進歩性を直接に認めることができる。

 

 本件において、請求項1が進歩性を有するか否かを判断するポイントは、先行技術に式IIIの化合物を選択することにより、高い光度、高い発光効率を有する有機ELデバイスを得る示唆が存在するか否かである。証拠文献1、2、3は、本特許が解決しようとする発光デバイスが高い光度領域で高い発光率を有するという技術的課題について、いかなる記載もなく、当業者は、発光デバイスが高い光度領域で高い発光率を有するという技術的課題に直面する際、証拠文献1、2、3から示唆を得て、且つ証拠文献2、3の数多くの化合物の中から本特許請求項1の特定の式IIIの化合物を選択して前記技術的課題を解決することができない。また、証拠文献2は、駆動電圧を低減、或いは発光寿命が顕著に向上する有機ELデバイスを提供する目的に基づいて一連の化合物を提供しているが、実験結果によると、本特許請求項1の式IIIの化合物が好ましい化合物ではないことが示されている。証拠文献3は単に正孔輸送材料に用いる複数の化合物を列挙しただけで、化合物を正孔輸送材料として用いるメリットやデメリットについて明確に説明していない。したがって、証拠文献1-3には相応の技術的示唆が存在しない。」)

 

【留意事項】

 無効審判請求人が提出した証拠文献には、本件特許発明と同一構造の化合物が開示されているものの、本件特許発明の目的及びその効果に関して一切の開示がない以上、本件特許発明の進歩性を否定できない、という妥当な審決、判決である。

 

 なお中国の当事者系審決取消訴訟の被告は、審決を下した行政庁である国家知識産権局専利覆審委員会であり(一方当事者は第三人として訴訟参加。単独で上訴可能。)、行政事件訴訟の性格を有する。ちなみに本事件の特許権者及び無効審判請求人はともに日本企業であり、中国市場を巡る日本企業同士の争いである。

■ソース
北京市高級裁判所判例2012年7月12日付(2012)高行終字第618号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=967072 中国特許第02810565.6号(公告番号CN100377382C)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.06
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